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オバマ金融ショックの本質― ボルカー対サマーズ

投稿日:2010,02,03

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【1. オバマの新金融規制法案とは何か?】


オバマ大統領が、新金融規制案を発表してその行方が注目されている。

ボルカー元FRB議長を中心にしてまとめられた「新金融規制案」の意味するものは何か?

第一に、それはヘッジ・ファンドに代表されるハイリスク・ハイリターンの金融業を規制して、金融制度全般の安定性を高めるという事である。
第二に、投資銀行などが行うハイリスク・ハイリターンの金融業と、企業や個人の預金を扱う商業銀行(此方の方はローリスク・ローリターンのビジネス)を識別し、両者の融合を分離するという方向である。

という事は、第三に、従来、進めてきた投資銀行と商業銀行の融合の方向を見直し、かつて廃止したグラス・スティーガル法案を事実上、復活させてゆくという方向である。

リーマンショックで明らかになったのは、実は商業銀行で集めた正直なお金をもとに金融機関が投機的なハイリスクの投資を行い、相場が破たんすれば、正直な小口の預金者までその被害を被るような構造が出来てしまっていたという事であった。
勿論、アメリカにはFDICという預金保証機構はあるが、金融機関が破綻してしまえば、連邦政府の負担はあまりに巨大なものになってしまう。

その危険性が明らかになったので、80年代以来の金融規制緩和の方向を逆転させるという事である。
投資銀行というのは名前は銀行だが、日本の証券会社と類似した存在である。

証券業と銀行業の融合が、金融バブルを生んだ制度的な原因の一つであり、これをアメリカが反省し、方向転換を図りつつある、というのがオバマ金融規制法案の根幹である。
そしてこれは第四に、オフショー金融マーケットで急成長した世界のアングラ・マネーを徹底的に締めあげ、金融界を正常化するという目的も持っている。
オフショーのアングラ・マネーが世界の金融を如何に不安定化させ、リーマンショックうの引き金を引いたかについては、拙著『ドンと来い!大恐慌』を是非、参照してもらいたい。


【2. ボルカー vs サマーズ 】

オバマ政権の金融関係の人脈を見ると、最も大事な対立軸は、《ボルカーvsサマーズ》のそれである。

規制を強化し、金融業界のの正常化を図ろうとするボルカーに対して、ヘッジ・ファンドとの関係の深いサマーズ米・国家経済会議委員長(クリントン政権末期の財務長官)は、規制強化に反対していた。
これが、オバマ政権誕生直後の対立図式である。

Obama1Paul%20Volcker.jpg
(↑↑ オバマの直ぐ左隣の近くに映っているのがボルカー。一番遠くで離れて端に映っているのがサマーズ。
※これは、オバマ政権発足直後の2009年2月6日の写真ではあるが、オバマとボルカーとサマーズの位置関係は、現在の3者の政治的距離関係を表しているようで興味深い。)

バーナンキFRB議長や、ガイトナー財務長官は、ウォール街を救済し、その救済の仕方があまりにウォール街優遇だというので、世論や議会は彼らを批難している。

しかし緊急対策として、それはやむを得なかった部分もあり、彼らがウォール・ストリートの代理人であるという批難はあたらない。
システム全体を救済する為にはある程度、やむを得ない大盤振る舞いであったと思う。

バーナンキやガイトナー以上に、ハイリスク・ハイリターン的金融業界のバックアップを受けているのがサマーズである。
政権の初期、オバマはサマーズを重陽し、ボルカーを軽視していた。

それが、金融危機の本質が明らかになるにつれ、ボルカー的規制強化案を受け入れるようになってきた。

これは、世界の金融界の正常化の為には、大局的に見て良い事ではあるが、それが多くの痛みも伴うのは確かである。

単純化して言えば、銀行で集めた金を、銀行の経営者がカジノで投機行為に走るのを禁止するのは当然の行為である。
それでは、オバマ政権のこの方向転換は、何故、起きたのか?

それにはキーパーソンであるポール・ボルカー元FRB議長のバックグラウンドをよく考えてみる必要がある。


【3. ポール・ボルカーこそ、真のウォール・ストリートの代表である】

ポール・ボルカーをウォール・ストリートの代表ではない、という見方もあるが、これは少々、皮相な観察である。

ウォール・ストリートと言っても一種類ではない。

私は二つに分けて考えるべきであると思っている。

第一は、ハイリスク・ハイリターンに狂奔する、ヘッジ・ファンドに代表される金融業界である。
第二は、ロックフェラー財閥や、モルガン財閥等に代表されるアメリカのエスタブリッシュメントの金融部門である。
ボルカーは、間違いなく第二の意味のウォール・ストリートの代表者である。

ポール・ボルカーのキャリアを見てみると、ロックフェラー財閥の財務部門であったチェイス・マンハッタン銀行(現在はモルガン・チェイス銀行)と財務省の間を往復しながら出世してきた人物である。

彼が、FRB議長に就任した時に、何をやったかを振り返ってみよう。
時は、カーター政権の末期であり、第二次石油ショックの影響が大きく、アメリカはスタグフレーションに悩まされていた。

スタグフレーションとは、スタグネーション(不況)とインフレーション(物価高騰)が並存している状況である。

これに対して、ボルカーが取った政策は、ドルの絶対的供給量を縮小させるという事であった。

就任直前のボルカーは、私の友人のアメリカ人に対して、(電話での個人的な会話の中で)「世界で最も重要なプライスは、ドルのプライスである」と明言している。

通貨(ドル)のプライス(値段)とは何か?

通貨の価格は、金利であると言われている。
つまり、1万ドルを1年借りて、その金利を1000ドル払うとすれば、その金利分が1万ドルという元本を1年間利用する価格になる訳である。
実はボルカーは、ドルのプライス(金利)をコントロールしようとはしなかった。

ドルの絶対的供給量をコントロールし、値段(金利)は上げるにまかせたのである。

つまり、1日1万個のリンゴを出荷していた農家が、ある理由により突然、リンゴを1日3000個しか出荷しなくなった状況に例える事が出来る。
この3000個のリンゴの値段は、市場が高騰させるのに任せた訳である。

その為、アメリカではピーク時には金利は年利20%にも達した。
強烈な不況がやってきたが、ドルの信用は救われ、そこからアメリカ経済は再スタートした。
ボルカーのマネタリストとしての信念が行わしめた政策であった。

幸い、カーターの後に就任したレーガン大統領は、大胆な赤字財政を組み、事実上のケインズ的経済政策をとったので、アメリカ経済は成長軌道に戻る事が出来た。

ボルカーは、ロックフェラー財閥に代表されるアメリカの真のエスタブリッシュメントの代理人(サロゲート)である。







彼の立場からすれば、ヘッジ・ファンド的な投機行為が過度に増殖し、健全なアメリカ経済をむしばむ事を許してはおけないのである。
彼は、謂わば、エスタブリッシュメントの深奥からオバマ政権に送り込まれた、そのサロゲート(代理人)である。

選挙戦の比較的早い時期に、ボルカー氏が、オバマ候補の支持を表明した事を知って、私は、オールド・エスタブリッシュメントが、オバマを抱え込んだと確信した。

「抱え込んだ」という言い方が一方的ならば、少なくとも、新興オバマ陣営とオールド・エスタブリッシュメントとの間に、協定が成立したと言い換えても良いだろう。

オバマは、オールド・エスタブリッシュメントのリクエストを着実に実行しつつあると言えよう。

オバマが確かにマサチューセッツ・ショック(上院補欠選挙での民主党の敗北)に焦り、新金融規制案を前倒しで発表したのは、確かであると思う。
しかし、金融規制の方向自体は、真のエスタブリッシュメントの望むところであり、そオバマはその方向に動いている。


【4. アメリカも輸出主導型経済成長へ?】

オバマは、最近の一般教書演説や遊説中の演説などで、盛んに輸出によるアメリカの経済成長を強調する。

しかし、結論から言えば、これは極めて難しいシナリオであると言わざるを得ない。

世界は構造的な需要不足に陥っており、この需要不足を補ってきたのがアメリカの過剰消費であった。

確かに、発展途上国のマーケットが成長してはいるが、そこに日米欧の先進国が揃って輸出競争を仕掛ければ、とても第3世界の内需だけでは世界経済が引っ張っていけない事は確かである。

1984年に出版した私のデビュー作である『世界経済大予言―高度情報化社会の幻想 (カッパ・ブックス) 』(光文社)以来、主張してきた事だが、このような第3世界の内需を拡大する事は確かに長期的には先進国の為にも、世界経済全体のバランスある発展の為にも望ましい事である。

しかし、低開発国の内需の拡大は、困難に満ちたものであり、一朝一夕に実現するものではない。
少なくとも、現行の世界経済の不況から、先進国が抜け出すための成長のエンジンとしては、あまりに小さすぎる。

それを無理やりやろうとすれば、先進国間の過当競争となり、お互いに首を絞め合う事になってしまう。

ただし次のような事は指摘しておいてよいだろう。

今年、ASEAN諸国間の関税撤廃が実現する。
これを見越して、クリントン米・国務長官は、ASEANに急接近する政策を打ち出している。

これは、シナと一定の距離をとる一方、安全保障面でも経済面でも、ASEANを重視して行こうという外交方針である。
当然、アメリカとしては、ASEAN諸国への輸出攻勢をかけたいという思惑がある。

ロシアはベトナムへの原子炉輸出を目論んでいる。
これもシナへの警戒とASEANへの接近を図るロシア外交の方向転換を如実に表している。
(ロシアのベトナムへの原子炉輸出に関しては、日本も協力できそうである。「CFGレポート」平成22年1月号No274参照 )


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