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是非、読んでもらいたい!『守るべき日本の国益―菅沼レポート』

投稿日:2009,06,18

守るべき日本の国益―菅沼レポート 』(青志社 1575円)




 菅沼光弘先生は、昭和11年生まれ、東大法学部卒業後、昭和34(1959)年公安調査庁に入庁し、対外情報活動部門を中心にソ連、北朝鮮、シナの情報収集に35年間あたり、対外情報の総責任者である調査第二部長を務め、平成6(1995)年に退官されている。

 菅沼先生は、私が最も尊敬する対外情報分野の専門家である。
冷戦時代は公安調査庁は日本のCIAとも呼ばれた組織である。
その対外関係部門の最高責任者を務められた先生は、まさに日本で最高のインテリジェンス(諜報活動)の専門家である。
また、日本が本格的な情報機関(プラス特務機関)を創るとすれば、その初代長官は菅沼先生をおいて他にはいないであろう、と、言われてきた。

意外なことだが、この本は菅沼先生の初めての単著である。

日本の安全と外交に興味のある人々に必ず読んで欲しい名著である


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この本を読み始めるにあたっては、序章を読んだ後に、寧ろ終章(P248-P253 )を読み、その後に第一章から順番に読むと分かりやすいだろう。
この本は、3つの部分より成り立っていると思われる。

第1は菅沼先生の回顧録的な部分である。
第2は第二次大戦後の日本がおかれた外交状況と公安調査庁を中心とする日本のインテリジェンス・ヒストリーの部分である。
第3は、日本の現状と予測、さらにそこから生じる危機感の部分である。

終章のはじめに、はっきり著者自身が述べているように、この本のテーマは単純明快である。

「なぜ私が封印を解いて、この拙い単著を発刊しようと決意したか。それは、国を守るためには、愛国心が必要不可欠だということを、しっかりと読者のみなさんに伝えたかったからだ。
現在の日本は、極めて危機的な状況にある。この国難を乗り切るために、一人でも多くの人に、愛国心を持って望んでもらいたい。それが私の願いだ。」(P248)


本書の第1の部分、第2の部分については、ここで書評者である私が細々と紹介するよりは、読者に本文を直接読んでもらうことの方が適切であろう。
いくつもの興味深いエピソードに溢れた叙実であり、非常に読みやすい構成となっている。

私がここで紹介したいのは、第3の部分、すなわち日本の現状と近未来の予測であり、これに関しては菅沼先生は極めて悲観的であり、日本が没落の危機にあることを指摘されている
より正確に言えば、アメリカとシナを中心に反日包囲網が形成されつつあり、日本の将来は極めて暗いという認識を先生は持たれている。

現在、北朝鮮問題を処理する為のいわゆる6カ国協議は現在既に日本を封じ込める対日包囲網となりつつあり、アジアはアメリカとシナの2国を中心とする共同管理の下に置かれてゆくのではないか?
というのが先生の危機感である。


「核問題が解決しないまま、2008年にアメリカは北朝鮮を「テロ支援国家」の指定から解除し、経済支援の道を開いた。
中国はすでに2005年から北朝鮮に投資し、経済交流を発展させている。
(中略)
「しかも、六カ国協議を「北東アジアの平和と安定を守るための恒常的な多国間の機構としていこう」という機運が各国間で高まっている。
するとどうなるか。
すでに東西冷戦は終わり米中対決が解決すれば、アメリカは日本を軍事拠点にする必然性は何も無い。
つまり日米安保条約は解消し、六カ国協議で北東アジアの平和と安全を守っていこうということになる。日本の安全は名目上、アメリカの「核の傘」から、六カ国協議の枠組みの「核の傘」に依存することになる。」(P.49) 注:アンダーラインは書評者。


この数行に菅沼先生の現在の憂国の想いが最もよく表れているように思う。

露骨に言うならば、六カ国協議は、最早、北朝鮮の核武装を阻止する枠組みではなく、日本の核武装を阻止する枠組みと成り果てているのである。


本書は、2009年3月の発行だが、米オバマ政権が親中化し、かつてのクリントン政権時代を上回る米中緊密化が必ずおきてくるだろう、と断言している。

私も、この予測と憂慮を120%共有するものである。

そもそも、ソ連邦が崩壊し、アメリカが冷戦に勝利した後、外交戦略の中心は経済戦争の分野へと転進した。
日本人は、アメリカとの経済関係を単に「経済摩擦」としか捉えなかったが、アメリカ側はこれを経済戦争と捉え、日本経済をアメリカの意のままに操る戦略戦術をフルに発動してきた。

オバマ新政権の顔ぶれを見ると、アメリカが日米安保条約を事実上破棄し、第二次対日経済戦争を仕掛けてくる事が明白である、と菅沼先生は警告している。

日本が自らの文明と国益を維持発展させる為には何をしなければならないか?
まず日本人は、対アメリカ観を根本的に見直し、また、国際政治とは所詮、弱肉強食のジャングルの法則が支配するものであるという事実を直視しなければならないだろう。


多くの人がこの名著を読み、一人でも多くの国民が真の愛国心と危機感に目覚める事を期待したい。